先日、あるレッスンを聴講する機会がありました。
その中で先生が、雪が音を吸い込んでしまうような寒さや静けさをイメージして、とお話しされていました。
そして、ふと「これまでに行った場所で、一番寒かったのはどこですか?」と受講者の方に尋ねられました。
返ってきた答えは「東京」。
関東出身の私は、思わず驚いてしまいました。九州からすると、東京もずいぶん寒い場所なのかもしれません。
私自身、ドイツで過ごした冬や、真冬に訪れたポーランドのことを思い出します。肌を刺すような寒さ、雪に覆われた景色、しんと静まり返った空気。そうした感覚は、確かに音楽の中に描かれた世界と結びつくことがあります。
実際にその土地を訪れ、その空気を感じた経験が、音楽を理解する手がかりになることは少なくありません。
けれども、人は自分が経験したことしか表現できないのでしょうか。
例えば俳優は、演じる人物と同じ人生を歩んできたわけではありません。それでも、想像力を働かせ、他者の感情や経験を自分の中に見いだして、さまざまな人物を演じています。
音楽も、どこか似ているように思います。
実際に経験したことから生まれる表現もあれば、まだ見たことのない景色や、知らない感情を想像することから生まれる表現もある。
経験することと、想像すること。その両方が、音楽の世界を広げてくれるのかもしれません。

